【書評】言ってはいけない 残酷すぎる真実 橘玲
所長がおすすめしていたので、買って読んでみました。
本屋の新書コーナーでも上位にランクインしているようで、世間的な注目も高い本のようです。
内容は、進化生物学や遺伝学などの学問で得られた知見をもとに「みんながなんとなくわかっているけど、でも決して口にはしないこと」を白日のもとにさらした良書。
頭の良さは遺伝で決まる、だとか薬物依存の両親のもとに生まれた子供は、やっぱり薬物依存になる可能性が高い、などといったことが、統計的なデータをもとに語られる。
理屈としても筋が通っていて、僕たちは「運動神経のいい親の子供は運動神経がいい」だとか「親の背が高い子供は、背が高い」といったことは認める。
でも、その理屈でいくと「運動神経の悪い親の子供は運動神経が悪い」ことになるし「太った親の子供は太っている」ことになる。
まあ、これくらいなら笑い話にもなるんだけど、著者の言う通り「勉強のできない親の子供はやっぱり勉強ができない」や「精神疾患のある親の子供は、高い確率で精神疾患を患う」といったことは、なぜか認めてはならないことになっている。
なぜか?
それが真実だと認めてしまうと、世の中がおかしくなってしまうと考えられているからだ。
でも、僕からすると、それこそおかしな話だ。
だって、世界は平等なんかなじゃないし、そんなことは誰だって知っている。
みんながみんな、プロ野球選手になれるわけじゃないし、いくら勉強を頑張ったって、みんなが東大に入れるわけじゃない。人は生まれながらに平等なんかじゃないって、みんな知っているのだ。
この本でも書かれているけど、そう言った潜在的なリスクを知っていることは、むしろ必要なんじゃないかな、と僕は思う。
大学生になれば酒を勧められる機会も増えるだろうが、そのとき正しい知識があれば、「自分には遺伝的に大きなリスクがある」と説明してきっぱり断ることもできる。あるいは依存症と遺伝の関係が社会に周知されていれば、遺伝的脆弱性のある友人や部下に無理に酒を飲ませようとはしないだろう。薬物に接触しなければ依存症になることはないのだから、そのような環境を社会がつくってあげればいいのだ
これは本当にその通りで、あらかじめ自分には「アルコール中毒になる危険性が高い」ということがわかっていれば、お酒を飲まないように注意するようになるだろう。最初の一杯を知らなければ、アルコールを飲もうとは思わないからだ。
偶然なんだけど、僕はこれと同じようなリスクヘッジをしている。僕の父親はヘビースモーカーで、おそらくその血を引いている僕にもニコチン中毒になる素養が多分に含まれている。本能的にその危険性を察知した僕は、タバコに一切手を出さないことに決めた。
タバコが性に合わないのではなくて、「合いすぎてヤバい」と察知したからだ。
だから僕はタバコを吸いたいとも思わないし、多分一生吸うことはないだろう。
こんな風に、あらかじめ自分の中に潜む遺伝的リスクを知ることができれば、それを避けるための様々な予防策を講じることができる。
なるほど、真実を知るのは怖いかもしれない。でも、早い段階で自分の遺伝的な特性を知っておくことは、却って自分の人生を楽しく過ごすために必要なことなのではないだろうか?
この本に書かれていることは、確かに目を覆いたくなるようなことばかりだ。でも、決して絶望するための本じゃない。
かつて
敵を知り、己を知れば、百戦して百戦危うからず
といった人がいた。
まさにそういうことだろう。
ぜひとも手にとって読むべき良書だ。
あと、個人的にはオスのペニスがなぜああいう形をしているのか、なぜ射精に至るためにピストン運動が必要なのか、という生物学的な話が面白かった。所長のメルマガのおさらいにももってこいの一冊だ。